いとしいもの

 BC財団に所属する警備員の殆どは、緊急事態や海外出動がない限り基本的に財団の本拠地で待機が命じられる。財団内で一番駆り出されるのは調査員や研究員などマクガフィンに直接関与するエージェントたちで、そちらはいくら人出があっても足りないくらいだが警備員はそうでもない。優秀な人材が揃っている、というのも勿論あるが、なによりセーフクラスのマクガフィンの場合は数人で対処できるというのも大きい。よって本部には常に数人の警備員が待機している。
 メルヴィ・アリシア・ヴェンネルバリも本日待機を言い渡されているうちの一人だった。他の警備員がどう過ごしているのかは知らないが、彼女は待機命令の際、決まって訓練場へと顔を出す。
 剣、銃器、素手における訓練を常に怠らないのは、彼女を含めて数人程度。その中でも彼女の必死さはある種の尊敬の念を抱かれる程度ではあった。
 自国の為に、女王陛下の為に。心の誓いは幼い頃から一度たりとも崩れることなく立てられ続けている。幼き頃の彼女を救ったヴィクトリア二世こそが生きる標であった故に、待機の時も休暇の時も、汗を流さずにはいられないのだ。
 休憩を入れようと訓練所から本館へ歩いていると、どこからかほんのりと甘い香りと紅茶の香りが流れて来る。そういえばもうすぐ15時だったか、と思い出して庭先の方へ足を運んだ。
 15時のティータイム。Mr.Dが主催するささやかな毎日のティーパーティには様々な人が集まる。魔法学生をはじめとする若者や甘いものが好きな者、会話を楽しむ為に参加している者もいる。今日は少しばかり女性が多いようだ。

「やあ、メルヴィ君。訓練所からの帰りといった所かな」
「Mr.D」

 人数分のティーカップとソーサー、砂糖とミルク、そして目の前の人物が淹れたのだろう紅茶のポットの乗った小さなワゴンを押しながら、管理者の一人であるMr.Dが声を掛けてきた。振り向いたことに、彼はにこりと笑みを浮かべる。

「良かったら君も一緒にどうだい」
「いえ、私は……。華やかな場にはそぐわないかと」

 つい、と庭先に目を向ける。エルザが焼いたのであろう様々な菓子を囲んではしゃぐ彼女たちの中に入れるほど器用ではない。それにきっと、あの場の雰囲気を壊してしまう。
 居場所を与えて仲間として扱ってくれる財団が、在籍する職員たちがメルヴィにとってかけがえのない存在だ。だからこそ憩いの場を邪魔するようなことはしたくない。そう思っての辞退だった。
 ふむ、と一瞬思案顔をした初老の男性は、なおも笑みを浮かべたまま言葉をかける。

「遠慮することはないさ。私たちは家族のようなものだ。家族の団欒にそぐわないも何もないだろう。それに」

 職員たちの姿を捉える。いつのまにかまた数人増えているようだ。

「彼らもきっと、君と話がしたいと思うよ。こういう機会は滅多にあることじゃあない。交流を持ち、相手の得手不得手を知り、いざという時に素晴らしい連携をする為にね」
 君と彼女のように。
 再度、どうする? と目で尋ねられる。ぎこちない、彼女にとって精一杯の笑顔でその問いに答えた。

「では、少しだけ」

 Mr.Dと共に光の中へ進み出る。心地の良い風が髪を揺らした。

「待たせたね。今日はメルヴィ君も参加してくれるそうだ」

 少し驚いた顔の後に、沢山の歓迎の言葉が掛けられる。
 彼女にとって、ここはかけがえのない家族と家だ。


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企画内企画 公式リードキャラクター Mr.D、エルザ・プラマティテちゃん
→お借りしました。
不都合ありましたらパラレルとして扱ってください。