朝食はもう少し後で

 薄っすらとカーテン越しに差し込む陽の光を浴び、少しずつ目を覚ます。
 あれからいくつかの月日が去って、メルヴィとハロルドは婚約を交わした。そうしてアコモとニールと住んでいた家を出て、二人の新居で過ごすことになった。
 準備をして、引っ越しをして、荷解きを経て。ようやっとこの場所に住んでいくのだと実感が沸いたのは昨日になってから。二人して余分なものを置くような性格ではないからか、家具類は実にシンプルだ。
 ぼんやりとしながら体を起こす。するりと掛布団が肩を滑り落ちた。向かいに置かれた同じサイズのベッドは使われていないかのように綺麗なまま。実際使われていないのだから当たり前なのだけれど。
 昨晩荷解きと設置が終わったことで気が緩んで、二人で談笑しながら久し振りにアルコールを飲んで。少し酔いが回ってきたところでキスをしてそのまま同じベッドへなだれ込んだ。
 そこまで思い出してメルヴィは、隣にハロルドが居ないことに気付く。恐らく今朝もまた走りに行ったのだろう。家のどこからも気配がうかがえない。
 もうぬくもりの欠片もないベッドをひと撫でして、ゆっくりと立ち上がった。
 寝室から出ると玄関から魔法式の鍵を開ける音がする。ハロルドが帰ってきたのだろう、出迎えようとリビングへ足を向けた。

「おかえり、ハロルド」
「ああ、起きたんですね。おはようございます。ただい、ま……」
「おはよう。……どうした?」

 玄関とリビングの扉越しに会話をして、「ただいま」と同時にその扉を開いた彼は急に言葉を詰めた。そうして不自然にもきょろきょろとあちらこちらを見て、小さく呻き声を上げている。何かおかしなことでもあっただろうか、と腕を組んではたと大事なことに気付いた。

「メルヴィ。……それ、誘ってます?」
「違うっ!」

 バンッとあるまじき音を立ててクッションがハロルドの顔面に直撃する。と同時に投げた本人であるメルヴィは寝室へ駆け込んで鍵をかけた。
 そういえばそうだ。行為に及んだのなら全て脱ぎ捨てている。ついうっかりいつも通り下着は身に着けているものだとばかり思いこんでいた。恥ずかしさと困惑とで一気に目が覚める。あちらこちらに散らばったままの衣服に呻くことしか出来ない。
 扉を挟んでハロルドが声を掛けてくるが、まだ暫くの間顔を合わせることすら出来なさそうだった。


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BC財団 警備員 ハロルド・ワーナーさん
→お借りしました。
もはや二次創作。こういうのを未来イフってんだね。わかるよ。