そんなこともある

「これはまた、すごい人混みだな」

 西京駅。天照神国で一番人が集まる場所。現在はマクガフィンの影響で電車は遅延や運転の見合わせが続いている。
 他の調査員達が中々調査が進まないとぼやいていた為、普段他の地区へ調査に出ているローザとメルヴィもまたこの場所へ来たのだった。
 駅構内には様々な人で溢れかえっている。なんとか職場へと向かおうと今動いている電車で新しいルートを探す人、家に帰れない旅行者からの質問と詰問。駅員だけでは対処できないらしく、ここにもやはり特高の姿が見えた。そしてその中には恐らく、マクガフィンの調査をしているだろう者たちの姿も見える。
 メルヴィはローザと二手に分かれて、駅構内の三階を調査していた。人混みの中を進みながら探してみるが、マクガフィンの姿らしきものは一向に見えず、また聴き込みを試みるものの大半の者が面倒事を嫌うようにそそくさと去って行く。これでは見つかるものも見つからないはずだ。

「それにしても今日は冷え込んでいるな」

 建物の中だというのに、どこからか入り込んでくる隙間風が首元を通る度に肩をすくませる。純粋な気温としては自国の方が低いが、あちらは蒸気機関のお陰でそれとなく暖かい。
 ローザと離れてからどれくらい経っただろうか。時計が役に立たない以上感覚でしかないが、もうそろそろ待ち合わせの場所に向かっても良いだろう。

◆ ◆ ◆

 ろろろは歩いていた。ぺちぺちと音がするようなしないような足で、点々と構内を歩いていた。天照にマクガフィンなるものが現れてからというものの、ほとんど毎日この調子だ。
 駅構内は通常よりも人が多く出入りしてごった返し、通常の業務だけでは不測の事態への対応が大幅に遅れる可能性がある。現状では特高の地域保安課と協力して人混みをさばいているため、ろろろは構内の見回りをしていた。
 気の向くままに歩いていると、いつの間にやら公衆トイレの前にやってきた。まばらではあるが通常より人がいるためか出入りもそこそこらしい。
 何とはなしにトイレの人の流れを見つつその場を離れようとすると、ろろろ視点から見てどうにもデカい(同じ職員のきさらぎより少し小さいくらいだろうか?)人物が女子トイレへ入ろうとしているのを見かけた。
 これ、ダメなやつか? 思うと同時に駆けだしていく。

「そっちに入るな!!」
「……私か?」

 長身の人物はろろろの方へ振り向く。声も低いこれは男だ間違いない。

「お前、あっち!」

 ビシッと細い指で隣の男子トイレを指す。男子トイレの標識、1カメ。ろろろの顔、2カメ。長身の男、3カメ。これ以上ないくらいのキマり方だ。
 すると犯罪者予備軍の男がしゃがみこんで目線を合わせる。よく見ると眼帯をしているらしい。そうして何やら胸ポケットからカードらしきものを取り出して見せてきた。

「すまない、女だ」
「?」

 カードはどうやら社員証のようなものらしく、目の前の人物の顔写真と名前(読めない)と性別が記入してあった。Femaleは女性。書類で何度か見て何度か教えてもらったので覚えている。
 カードを見る。男を見る。
 カードを見る。人を見る。
 カードを見る。ろろろに衝撃が走った。
 よろり。ふらついた身体を目の前の人物が支えてくれる。「大丈夫か?」と聞く声はどう聴いても男のソレだが、身分証明が間違っているとも思い難い。なにせ質のいいカードだ。ペラペラのプラスチックともただの紙とも違ういいカードだ。
 しっかりと両足で立ったのを確認すると、目の前の人物は女子トイレを指さす。

「行ってもいいか?」

 そこの言葉にろろろは頷くことしかできない。長身の眼帯は了承を取ると立ち上がり、女子トイレへと入っていった。


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西京駅員 丹波ろろろくん
→お借りしました。
長身の眼帯は言わずもがなメルヴィです。
不都合ありましたらパラレルとして扱ってください。