ガンッ、とひと際大きな音が響き渡る。訓練用の木製剣が正面からぶつかり合った音だ。互いの力は拮抗、微動だに動かない……それを、するりと身を躱すことでバランスを崩す。
「うわっ」
べちゃっ。力を入れ続けた結果として相手は前のめりに倒れた。とっさの判断で両手を地面に着けたところは流石の運動神経といった所だろうか。そのままくるりと体を反転させて地べたに座り込む。
手を差し伸べるも立ち上がる気力もないのだろう。全身で呼吸を整える様を見てメルヴィはそっと手を引っ込めた。
「も〜〜ダメ、疲れたーー!! メルヴィさんキツいよー!」
「これでも加減はしているぞ。君は筋が良いんだ、もう少し考えて動けるようになれば一矢報いることくらいはできるさ」
「ええー……想像できない……」
疲れもあってかずるずると床に体を横たえるデヴィットにどうしたものかと思案していると、開きっぱなしだった訓練場の扉から誰かがやってきた。
「デヴィ、いる? ……って」
「ああ、エイプリル。調査は終わったのか?」
「まあね。今は研究員達の結果待ちってところ。……というか、あんた達いつからやってたの?」
訓練場に入ってきたのはデヴィットの許嫁であるエイプリルだ。調査員である彼女は今朝早くからマクガフィンの情報を追っていた。予測ではEuclidクラスだと言っていたが、研究によってはSafeになることも少なくはない。そうであれば収容にさほど手が掛からないため有難いのだが。
なにはともあれ彼女の仕事は終わったのだろう。恐らくは彼の悪癖を心配してやってきたといった所だろうか。エイプリルの問いかけにそういえば、と壁掛け時計を見ると打ち合いを始めてから実に3時間ほど経過しており、通りで周囲から人が居なくなったわけだと納得する。
「3時間くらいだな」
「ずっと? 休憩もせず?」
こくりと頷くと彼女は一瞬頭を抱え、くるりと身を翻した。
「待ってて。飲み物くらい取ってくるわ」
「わーい、エイプリルさん優しい〜」
へろへろになりながら掛けられた言葉に照れつつ、エイプリルは小走りで訓練場を離れていく。床に転がったデヴィットは呑気に行ってらっしゃ〜い、と手を振っている。
「デヴィット、せめて壁際に移動しよう」
「でも風が気持ちいいよー」
「エイプリルに怒られるぞ」
「それは……嫌ー……」
しぶしぶと壁際に這うように移動していく。散々動かして火照った体に床の温度が心地いいのか、移動するのがどことなく楽しそうにも見えた。服が汚れるぞ、と言っても聞かないのだろう。
同じようにメルヴィも壁際へと移動して開け放たれた窓の外を見る。本部周辺に残っている木々はすっかり黄金色になっていた。夏の時期の暑さが引いて、これから更にロンドンは寒さを増していく。もうそろそろストーブが導入される頃だろうか。
暫くすると出て行った時と同じように小走りでエイプリルが戻ってくる。メルヴィにペットボトルを渡し、そのままもう一本の水を持ってデヴィットの元へ歩いていく。なんてことの無い会話をやり取りする二人に笑みがこぼれる。なんとも微笑ましい光景だ。
「そろそろ再開と行くか」
エイプリルの質問攻めにデヴィットが困り果てた頃、ペットボトルを置いて声を掛けると助け船とばかりに飛び込んできた。彼女は少々不満そうだが、タオルも準備して観戦していくつもりらしい。
それはある日の穏やかな午後のこと。
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BC財団 警備員 デヴィット・ドリトルくん、調査員 エイプリル・レインさん
→お借りしました。
不都合ありましたらパラレルとして扱ってください。