君と巡る

 西京都の時間遅延におけるフィールドワークで、西京都自体がこのままでは外界から隔離される可能性があると判断された。しかし肝心のマクガフィン、仮称:M-2988の所在は掴めぬまま、スパイと思われていた犯人が刺殺され天照調査団は次の一手を打つべく行動していた。
 Mr.Dと共に情報整理をしていたエルザが言うには、今回調査する地区は観光地として名高い場所とのこと。Mr.Dも該当地区を調査するようにと通達した。
 少々浮き足立った職員たちを横目に、メルヴィは未だどの地区に足を運ぶべきか決めかねていた。複数人での行動を推奨されているためローザと共に行動しようかと思ったが、彼女は既に研究員のユールと組んでいたようだ。間に入るのも悪いだろう。
 さて、どうしたものか。考えながらホテルの廊下を歩いていると、呼び止める声がひとつ。

「メルヴィ。調査の場所と相手はもう決まってしまいましたか?」
「いや、まだどちらも決めていない。君もか?」
「場所は決めているんですが……ご一緒願えますか、レディ」
「構わないが、その呼び方はどうかと思うぞ。観光地に行くといっても、あくまで調査だからな」
「ええ、もちろんですよ。では明日の朝にロビーで。身分証以外は私服でいらして下さい」
「……服装はいつものでいいんじゃないのか」
「せっかく観光地に行くんですから。悪戯に不安を煽るようなことも避けたいですしね」

 声を掛けてきたハロルドに「なるほど、一理あるな」と納得し、そのまま別れて互いに自室へと向かう。
 帰り際に会議室を覗くと、まだ数人がわいわいと明日について話し合っていた。
 調査は確かに大事だ。自分たちはその為に天照までやって来たのだから。それでも職員たちが疑心暗鬼に駆られて憔悴していくよりずっといい。
 ほんのりと顔を綻ばせながら、メルヴィは明日に備えて休むことにした。

 翌朝。
 約束通り私服に着替えてロビーで待ち合わせをし、ハロルドに引かれるまま西京ドーム周辺へとやって来た二人。彼はそのまま迷うことなくアトラクションエリアへ進んで行く。ひとり立ち止まるわけにもいかずメルヴィもそれに続く。
 園内を歩き回り、ディレイカウンターによるデータ収集とマッピングを記録。「せっかく来たんですから」と言われるままにほとんど使い道の無い給与の幾許かをショッピングに使用し、食事を取り、どこに何があるか分からないからといくつかのアトラクションに乗った所で、メルヴィは繋いでいた手をぐいと引っ張った。

「どうしました?」
「ハロルド。ここの調査が終わったのなら別の場所に行くべきじゃないのか?」

 じっと相手の顔を見つめる。顔にはしっかりと「遊びに来たわけじゃない」と書かれている。ハロルドは彼女に向き直って、いつもの笑みを崩さないままこの場所を選んだわけを話し始めた。

「確かに、この場所の調査は終わりましたね。ですが今は息抜きも必要だと思いまして。……あんな事があった後ですから、余計に」

 スパイが刺殺されたことは、職員の中にトメニアに通じる者が存在する事を表している。もちろん知らない者も多いが、学生を除いたほとんどの職員には知れ渡っていることだ。口や態度には出さなくても誰かを疑い始める時期である。だからこそ今この調査で、相手が敵なのか味方なのかを測っている者も多いだろう。
 それでも私には必要ない。メルヴィが首を振るが、ハロルドは更に言葉を重ねる。

「貴方のその真っ直ぐな所は好ましいですが、常に気を張っていてはいざという時に判断ができなくなりますよ。来天してからずっと仕事をしていたでしょう? 明日もありますから、今日はデートとしませんか」
「……最初からそのつもりだったろう、君」
「おや、何のことでしょう?」

 にっこりと笑む紳士。呆れたようなため息をついた後、「今日だけだぞ」と彼女はデートを承諾した。

「折角ならアレに乗ろう」
「メルヴィも気になっていたんじゃないですか」
「そうじゃない。その、どうせなら体を動かす方が性に合ってるだろう。お互い」

 手を繋いで、同じ速度で。恋人達は人混みの中に歩いて行った。


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BC財団 警備員 ハロルド・ワーナーさん
→お借りしました。
不都合ありましたらパラレルとして扱ってください。