おつかい、おつかい、橋渡し

「田田さん」

 学校が休みになる度にこの屋敷へと帰ってくる菖蒲は、今回もその手に土産を持ってきている。いつごろからか、彼女の母親が「お世話になっているんだから」と手作りの料理を一品わざわざ作っては菖蒲に持たせているらしい。

「これ、母さまからです」

 最初は人見知りが激しく、他人に話しかけることすら容易ではなかった少女が、こうして田田をはじめとする一部の組員にだけだが躊躇なく話しかけることができるようになったのは恐らく彼女の母親の計らいもあるのだろう。
 四十センチ以上も背丈が離れているため、一生懸命にこちらを見上げながら手に持った土産をうんしょと持ち上げる少女に礼をいうと、すぐに受け取った。彼女の持つ異能が恐ろしく力強いものといえど、普段は至って普通の少女だ。細腕にずっと持たせているのも悪い。
 彼女の母親は遠慮なく組員の分まで土産に持ってくるものだからとても助かってはいるのだけれど、菖蒲がそれを持ち続けられるかというと、それはまた別の話になる。無理はしないように言っても聞かない子だから、なるべく自然に、負担をかけないように。

「いつも悪いね」
「……母さまも私も、好きでやってますから」

 ふるふると首を振った後はにかみながら言う彼女は、この組に入ると言い出した時と同じように意思の強そうな目をしていた。
 一週間のうち二日間の休み。そのうちの一日は屋敷に泊まっていくが、学校が始まる前日の休みは大人しく元の家へと帰っていく。その時に毎度、土産のお返しにとタッパーに詰めたおかずを渡して菖蒲に持たせる。彼女の母親が是非と言ったときから、新しい料理のときはメモも一緒に風呂敷に包んで。

「はい、お返し。助かりましたと伝えておいてくれ」
「ありがとうございます」

 しっかりと抱え込んだ少女の頭を撫でて、日が暮れないうちに帰路へ着くように促す。
 ――まあ、当然のことだと思うが――最初は極道の道へ娘が入ることを反対していた父親も、最近では何も言わなくなったらしい。妻と娘が楽しそうに話をするのを聞いて、そう悪いことばかりではないと思っているようだと、いつか彼女の口から聞いたことがある。
 こうして、人と人とが繋がっていくのだろうか。
 いつも橋渡しをしてくれている菖蒲のために彼女の好物を包んだのがばれるのは、家についてからでいいだろう。


---------------

山元さん宅の田田慶二郎さんと。